【インタビュー】温暖化対策は待ったなし 大学の知を生かしてカーボンニュートラルを実現しよう


環境サステナビリティ研究所所長代行

 政治経済学部経済学科 大熊一寛教授

 

 世界的に激甚災害が多発し、日本でも豪雨や猛暑に悩まされた2023年。ついに世界の平均気温が産業革命前から1.4℃も上昇する事態になっています。2015年のパリ協定で定めた目標値は1.5℃の上昇で止めること。待ったなしの現状で大学が果たす役割について、環境サステナビリティ研究所所長代行で政治経済学部経済学科の大熊一寛教授に聞きました。

 

―なぜ今、「カーボンニュートラル」が注目されているのでしょう?

背景には、地球温暖化によって人々の生活が脅かされる事態が現実になり始めていることがあります。世界気象機関(WMO)は2023年の平均気温が産業革命以前(1850年~1900年)に比べて、1.4℃も上昇したと発表しました。それまでは2016年の1.29℃が歴代最高だったのですが、さらにそれを更新したのです。

 

1.4℃というと一見、わずかな上昇のように見えるかもしれません。しかし既に、世界各地で山火事や干ばつ、洪水などの被害が激甚化し、海水面が上昇して島が少しずつ浸食されているといった現実の被害が起きています。これにともない、多くの人々が生まれ育った場所に住めなくなったり、水や家畜を奪い合う紛争が起きたりといった被害が頻繁に起きるようになっています。

 

「地球温暖化」は1980年代から指摘されており、世界中の研究者が参加する国際機関、IPCC(気候変動に関する政府間パネル )は以前から警鐘を鳴らしていました。少し前まで、気候変動を疑う「懐疑論」を唱える人もいましたが、もはやそのような余地はありません。IPCCはこれまで「何パーセント程度の可能性」といった、科学者らしい慎重な表現を使っていたのですが、2021年度の第6次評価報告書ではついに、「人間の活動が生み出す温室効果ガスが温暖化の原因であることは疑う余地がない」と断言しました。これは、気候変動がいよいよ現実のものになったという、重い意味を持っています。

 

気候変動の被害が見えてきたことを受けて、対策を強化しようとする機運が高まり、国際合意(パリ協定)が成立しました。こうした情勢を踏まえ、日本政府も2020年に「2050年カーボンニュートラル宣言」を発表し、脱炭素社会を実現して温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを国際公約として掲げています。

 

―21世紀末の世界平均気温を1.5℃程度の気温上昇に抑えるのはなぜでしょうか?

「1.5℃」という数字は、IPCCが科学的な判断として示しているものです。2015年に締結されたパリ協定でも、「世界平均気温の上昇を産業革命前よりも2℃を十分に下回るようにし、1.5℃の水準に制限する」とされています。

 

当初は、「2℃」という考え方もあったのですが、科学的な知見が積み重なる中で、2℃の上昇を許してしまうと、地球の環境変化が加速して止まらなくなり、破局的な状態に陥る可能性が高まることがわかってきました。こうしたことから、環境の変化をコントロールできる範囲に抑えて文明的な生活を続けるための基準として、「1.5℃」が目標とされています。

 

―21世紀末の世界平均気温を1.5℃程度の気温上昇に抑えるのはなぜでしょうか?

「1.5℃」という数字は、IPCCが科学的な判断として示しているものです。2015年に締結されたパリ協定でも、「世界平均気温の上昇を産業革命前よりも2℃を十分に下回るようにし、1.5℃の水準に制限する」とされています。

 

当初は、「2℃」という考え方もあったのですが、科学的な知見が積み重なる中で、2℃の上昇を許してしまうと、地球の環境変化が加速して止まらなくなり、破局的な状態に陥る可能性が高まることがわかってきました。こうしたことから、環境の変化をコントロールできる範囲に抑えて文明的な生活を続けるための基準として、「1.5℃」が目標とされています。

 

細線(黒):各年の平均気温の基準値からの偏差、太線(青):偏差の5年移動平均値、直線(赤):長期変化傾向。基準値は1991〜2020年の30年平均値。日本の夏(6月~8月)の平均気温も年々上昇していることが見て取れる(出典:気象庁HP)

―「カーボンニュートラル」の実現に向けて大学の役割は?

 「カーボンニュートラル」は大きなチャレンジです。国だけでも、企業や自治体だけでも実現できません。すべての人々が参加し連帯して、社会全体の仕組みを変えていかなければ実現できないでしょう。そこでは、技術や社会に関する新しい知見も求められます。

 

だからこそ、大学の出番なのです。大学では、さまざまな分野の専門家が英知を磨き新しい「知」を日々創造しています。その「知」を生かして自治体や企業、市民の方々と連携していくこと――「カーボンニュートラル」実現のために、大学が果せる役割です。

 

既に企業では、「環境・社会・ガバナンス」(ESG)という3つの要素を考慮した経営を行っているか否かが、投資対象、さらには就職先として選ばれるための基準の一つになっています。そして今後は、企業や自治体、ひいては高校生などが大学を選ぶ際にも重視されるでしょう。

東海大学は2021年より「カーボンニュートラル達成に貢献する大学等コアリション」に参画し、教育・研究の幅広い分野で他大学と連携した取り組みを始めていますが、今後はさらに積極的な取り組みを展開する必要があると考えています。

 

社会全体の仕組みをより持続可能で望ましい方向に変えていくこと――。それは、一部の行政や企業の仕事ではなく、一人一人の市民が行動することで実現できるものだと思います。東海大学に集う教員・職員・学生の皆さんには、それぞれの立場から考え、協力して、主体的に行動していただきたいと思います。そして「東海大学」の英知を生かし、キャンパスの取組から、地域や企業と連携した活動、そして技術的な処方箋の提案まで、それぞれの強みを生かした幅広い取組を進めて行く。それが、カーボンニュートラルへの第一歩になり、ひいては、より幅広い社会課題の解決につながっていくと思います。

 

おおくま・かずひろ

東京大学教養学部教養学科卒業。横浜国立大学大学院国際社会科学研究科グローバル経済専攻(博士課程後期)修了。博士(経済学)。環境庁(環境省)に入職後、内閣官房参事官、環境省環境経済課長、東北大学大学院法学研究科公共法政策専攻教授などを経て、2021年4月に政治経済学部経済学科に着任。専門は、環境マクロ経済学、環境政策、制度経済学。