静岡キャンパスで国際漁業学会2023年度大会シンポジウムが行われました


静岡キャンパスで8月26日に、2023年度国際漁業学会大会シンポジウム「漁村地域活性化と海業の推進」が開催されました。2627日の2日間にわたって開かれた同学会の一環で実施されたものです。1990年代に入ってから漁業の縮小再編や水産業の空洞化が進み、崩壊の危機に直面する漁村地域をいかに振興するかが問われる中、豊かな自然や漁村ならではの地域資源の価値や魅力を生かした「海業(うみぎょう)」がその打開策として脚光を浴びています。本シンポジウムは海業振興の意義や漁港制度の改革、海業のあり方を検討することを目的としています。

 

 

 

 

 

当日は、国立研究開発法人国際農林水産業研究センターの宮田勉氏によるあいさつの後、第Ⅰ部「海業の推進をめぐって」を実施。初めに東京海洋大学准教授の松井隆宏氏が「漁村地域活性化と海業の推進―海業振興の意義」と題してシンポジウムの趣旨や海業を巡る研究、社会経済的意義などを語りました。続いて4つの報告が行われ、海洋学部水産学科の李銀姫准教授が「海業の振興とブルージャスティスの視点の重要性」をテーマに講演しました。李准教授は、適切な漁業・海洋ガバナンスの構築を訴える「ブルージャスティス」について解説するとともに、日本国内での漁業法の改正、大規模漁業と沿岸漁業の課題を同様に考えていいのか、格差原理の衰退とともに小規模漁業が取り残される懸念など、漁業や漁村を取り巻く課題や概要を説明。「海業は単に海に関連するビジネスではなく、躍動する地域の生業でなければなりません。海業も生命産業であり、その深い理念が正しく理解され、真の海業が進められる必要があります。そのためにブルージャスティスの視点が重要である」とまとめました。

 

 

 

 

 

第Ⅱ部「地域での実践」では、人文学部人文学科の関いずみ教授が司会を担当。「海業が地域の中でどのような意義を持ち、地域社会や暮らし、地域経済にどのような影響力を持っているのか、具体的な事例の中から見ていきたいと思います。静岡県は漁協が運営するダイビング事業、魚食レストランや直売所の経営、加工品の開発など、海業の範疇に入る多くの取り組みが盛んに行われている地域の一つです」と紹介。由比港漁協、清水漁協用宗支所、伊豆漁協稲取支所、いとう漁協の漁業者リーダーが地域資源を生かした海業への取り組みについて語りました。第Ⅲ部では総合討論が行われたほか、登壇者らが参加者から寄せられた質問にも回答。海業や漁村地域活性化に向けた活発な意見交換が行われました。

 

 

 

 

 

シンポジウムの内容は以下の通りです。※敬称略

 

2023年度国際漁業学会大会シンポジウム「漁村地域活性化と海業の推進」

総合司会:山下東子(大東文化大学)、川辺みどり(東京海洋大学)

 

開会のあいさつ 宮田勉(国際農林水産業研究センター)

 

第Ⅰ部「海業の推進をめぐって」 司会:川辺みどり

解 題:「漁村地域活性化と海業の推進海業振興の意義」松井隆宏(東京海洋大学)

報告1:「海業の振興をめぐる政策的展開」浪川珠乃(漁村総研)

報告2:「海業の振興とブルージャスティスの視点の重要性」李銀姫(東海大学)

報告3:「海業の振興と新たなビジネスモデルの構築-()ゲイトを事例に-」神山龍太郎(水産研究・教育機構)

報告4:「オーストラリアの漁村経済と海業-Can food localism save small-scale fisheries in Australia?-」ケイト・バークレー(シドニー工科大学)

 

第Ⅱ部「地域での実践」 司会:関いずみ(東海大学)

解 題:「静岡県の漁業・海業の全体像」 関いずみ(東海大学)

報告5:「由比港漁協における海業の取り組み」宮原淳一(由比港漁業協同組合)

報告6:「清水漁協用宗支所における海業の取り組み」斉藤政和(清水漁業協同組合・用宗支所)

報告7:「伊豆漁協稲取支所における海業への取り組み」鈴木精(伊豆漁業協同組合・稲取支所)

報告8:「いとう漁協における海業への取り組み」高田充朗(いとう漁業協同組合)

 

第Ⅲ部「総合討論」 司会:山下東子・川辺みどり

コメンテーター:宮田勉(国際農林水産業研究センター)、五月女圭一(株式会社ゲイト)、中原尚知(東京海洋大学)

 

閉会のあいさつ 松井隆宏(東京海洋大学)