第19回アジア農業シンポジウムを阿蘇くまもと臨空キャンパスで開催しました


阿蘇くまもと臨空キャンパスで12月2日に、第19回アジア農業シンポジウム(主催・東海大学)を開催しました。この催しは、アジア諸国における食料・農業問題を考えていくために、研究成果を共有と研究者間の交流を深めることを目的として1982年から開催している国際会議です。農学部が主体となりアジア諸国の大学・研究機関と連携し、日本、フィリピン、タイ、シンガポールなどアジア各地で各国の農業と環境問題を中心に討議を進めてきました。19回目となる今回は2018年以来5年ぶりの実施であり、今年4月にオープンした阿蘇くまもと臨空キャンパスでは初の開催となりました。「今考える農学の未来~農学は、地域、世界、未来とどう向き合うべきか?~」をテーマに、口頭発表とポスター発表、パネルディスカッションなどを実施。学生や教職員、熊本県内の高校生や住民らが来場したほか、オンライン配信も併用したハイフレックス方式を採用し、全体で約600名が参加しました。 

会場では、はじめに吉川直人副学長があいさつし、参加者への謝辞とともに「世界では今、人口増加をはじめ、武力衝突により世界の穀倉地帯と呼ばれるエリアから食料の必要な地域への供給が滞るなど食料の安全保障を脅かす事態が続いています。本シンポジウムでは1980年代から人類の課題への挑戦を続けており、今回も皆さんと共に今後の農業のあり方を考え、研究成果を共有する機会にしていきたい」と語りました。続いて来賓を代表して熊本県の蒲島郁夫知事が、「熊本県では、国の指針に基づき『熊本県緑の食料システム基本計画』を策定し、稼げる農業と環境に優しい農業の両立を目指したさまざまな政策に取り組んでおります。東海大学との農業に関わる学術研究交流計画に関する基本協定に基づき、今後も相互に連携協力し、持続可能な農業の実現を目指していきます」と述べました。 

続いて山形大学名誉教授・放送大学教授の安田弘法氏による基調講演を実施。安田氏は、環境科学の視点や遺伝子組み換え技術、有機農法に関する技術、生命科学との融合など幅広い視点から将来の農学に求められる研究・実践体制の構築について語りました。また、ポスター発表では農学部、文理融合学部の教員、学生や大学院 生物科学研究科・農学研究科の大学院生、公立の研究機関、企業、熊本県内の高校生も農業にまつわる日ごろの研究やプロジェクト活動の成果を披露。オンラインポスター発表も同時に実施し、学園から付属静岡翔洋高校の生徒も発表に立ったほか、海外の研究者ともつないで参加者が意見を交換しました。昼食時の懇談会では、農学部と文理融合学部の教員による審査で決定した高校生の優秀発表表彰も行い、サプライズゲストとして熊本県PRマスコットキャラクターのくまモンも登場する中、最優秀賞に選ばれた熊本県立芦北高校の皆さんに木之内均熊本キャンパス長から表彰状が手渡されました。

 

後半の口頭発表では本学農学部をはじめ文理融合学部、インドネシア・パジャジャラン大学、タイ・モンクット王ラカバン工科大学(KMITL)の研究者6名が登壇。農作物から家畜、農業と福祉の連携など幅広い研究内容について紹介し、会場も交えた熱心な質疑応答も繰り広げられました。続いて本学総合農学研究所の今川和彦所長による進行で総合討論も実施し、KMITL工学部長のソムヨット・ギャットワニットヴィライ氏やパジャジャラン大農学部教務副学部長のアフマド・チョイバル・トリダクスマー氏、台湾東海大学元教授の王良原氏、本学農学部のモニター農家制度作物部会会員であり八代市で有機農法に取り組む稲本薫氏、本学大学院生物科学研究科の星良和研究科長らが登壇。農業へのAIなど最先端技術の活用をはじめ、貧困解消における農業の役割、インドネシアにおける土壌開発、農作物の安全性確保など農学の未来に関わる多彩なテーマで議論を交わしました。最後に本シンポジウム事務局長を務めた農学部の村田浩平教授が、「これからの農学はイノベーションや異分野連携によって食料問題、環境問題の解決を目指すことが重要。生産者や行政関係者、学生の皆さんにとっても、持続可能で幸福な社会の実現のために環境科学の重要性を認識してもらいたい。また、国際協力の重要性を忘れず、専門性に特化しすぎたバランスの悪い農学が栄え、農業が滅ぶことのないよう教育・研究、国際協力、地域貢献の分野で仕組みを再構成していく必要がある」と結びました。 

最後に閉会にあたって木之内熊本キャンパス長があいさつし、本シンポジウムの歴史と意義を振り返りながら、「今回皆さんと交わした議論から持続可能な農業への道が拓かれたように感じています。この成果が第20回につながることを期待しています」と呼びかけました。

 

なお、今回のシンポジウムの模様は、KDDIが提供する法人・自治体向けの衛星ブロードバンド「Starlink Business」を活用して海外9大学にも配信。学長室情報担当の岡田工部長(理系教育センター教授)ら教職員が運用に当たりました。

 

基調講演、口頭発表者とパネルディスカッションの登壇者やテーマは以下の通りです。

◆基調講演

安田弘法氏(山形大学名誉教授・放送大学教授)「環境科学を踏まえた21世紀の農学の重要性:過去・現在・未来の課題と挑戦」

◆口頭発表

高橋秀行准教授(東海大学農学部)「植物の休眠と農業」

稲永敏明准教授(同)「熊本系褐毛和種の特性に関する研究」

米田一成教授(同)「藍染めと酵素の化学」

濱田健司教授(東海大学文理融合学部)「日本における農福連携の推進」

レジナワンティ・ヒンデルサー氏(パジャジャラン大学農学部教授)「インドネシアの土壌における持続可能な農業のための窒素固定細菌(アゾトバクター)の重要性について」

マユラ・スーンウェラ氏(モンクット王ラカバン工科大学農業技術学部教授)「未来の農家:農業の幸福」

◆パネルディスカッション

座長:今川和彦教授(東海大学総合農学研究所所長)

ソムヨット・ギャットワニットヴィライ氏(モンクット王ラカバン工科大学工学部学部長)

アフマド・チョイバル・トリダクスマー氏(パジャジャラン大農学部教務副学部長)

レジナワンティ・ヒンデルサー氏

マユラ・スーンウェラ氏

王良原氏(台湾東海大学元教授)

安田弘法氏

星良和教授(東海大学大学院生物科学研究科研究科長・農学部教授)

稲本薫氏(本学農学部モニター農家制度作物部会会員)

(登壇順)

 

◆一般ポスター発表 高校生優秀発表表彰受賞校・テーマ

☆最優秀賞

熊本県立芦北高校「森から海を見つめ、海から森を見つめる~21年間の芦北湾のアマモ再生~」

☆優秀賞

熊本県立熊本西高校「西高周辺に蔓延るホシアサガオ~ねじれた茎の生存戦略~」

☆優良賞

熊本県立阿蘇中央高校「アニマルウェルフェアの実践~付加価値創出への取組~」

☆オンライン特別賞

東海大学付属静岡翔洋高校「サンゴの白化を通して、子供から大人へ海の現状を伝えよう!」